Don't Repeat Yourself

Don't Repeat Yourself (DRY) is a principle of software development aimed at reducing repetition of all kinds. -- wikipedia

『バイリンガルITエンジニアの英語』

最近本ばかり読んでますね。そろそろコードを書いた話をしたいところなんですが、積読を消化するのに手一杯です。いえ、仕事ではコードを書いているんですけどね。

さて、ITの現場でよく使われる英語表現が詰まった一冊が出版されたので読んでみました。ぱらぱらと目を通して気になるフレーズをメモした、の「読んだ」です。

かくいう私もここ数年はずっと英語を使って仕事をする職場に従事しており、英語に対する意識はちょっと高めです。私自身は英語自体はケンブリッジ英検だとB2を昔とった(今だとC1取れるかも?)レベルなので、日常会話や仕事での会話で一通り困りはしないが、フォーマルな表現で言い換えたり、単語にある微妙なニュアンスをちゃんと使い分けて会話したり、複雑な概念(哲学に出てくるやつとか)を英語で的確に伝え切るみたいなところは難しい感じです。先日US出身の日本人の同僚に「英語は話せてる!」とフィードバックをもらったり[*1]、イギリス人の方に「君はロンドンに住んでたの?ブリティッシュ-ジャパニーズ訛りだけど」と言われるくらいなので、まあ話せているんでしょう😂 ただ、こういう本はありがたいですね。

どんな本か

英語のネイティブスピーカーが書いたIT企業の現場で使える表現が詰まった一冊です。「ネイティブスピーカーが」というところが大事なのかなと思っています。というのも私もフィリピンの人と働いていて、ネイティブかそうでないかではかなり使う英語表現が異なるように思うためです。USやUKの職場で働く際には、こうしたネイティブスピーカーが使う表現を知っているかは大事なことのように思います。相手の言っていることがわからないと始まらないですからね。

英語の紹介を通じつつ、アメリカのテック企業ではどのような仕事の進め方がなされているかとか、どういう働き方をしているかなども紹介されています。あとおもしろかった章は求職に関するものですかね。どうレジュメを書いたらいいかとか、面接の進み方とかが紹介されていてイメージがつきやすくなっています。私はしばらく転職の予定はないですが、もし仮に次あるとしたらまた外資に戻るかなあ(直近のキャリアは外資→日系となっています)と思っています。そのときに役立ちそうです。

書籍の構成としては、まず最初に簡単なフレーズの紹介があります。フレーズの紹介のタイミングで、そのフレーズがどういう場面で使われるかなどが説明されます。「即戦力フレーズ」となっている通りで、明日から仕事で使えそうな英語のフレーズがたくさん載っていると思います。当然ですが、同僚からもよく聞くセリフが多くあります。

そのあとはフレーズを盛り込んだスクリプトが続きます。スクリプトは実際に仕事でよく出くわすであろう場面(たとえばミーティングやコードレビューでの会話など)がピックアップされており、流れの中でフレーズを学べるような構成になっていると思います。

どんな人におすすめか

書籍のテイスト的には、これから海外のテック企業を目指す若手の方向けに書かれていそうな感じがしました。が、私のようなシニアソフトウェアエンジニアであっても英語という観点で役に立つ一冊でもあるように思っています。

細かいニュアンスなんかはちょっと少なめですね。たとえば「"a barrage of"とかはたとえばネガティブな文脈で使われることが多いと思いますが」みたいな話は書いてないものも結構あります。この手の本では仕方のないことですが、でも知りたいのはそこだったりするのでなかなか難しいですね。なので、そのレベルまで求めていた場合はミスマッチかもしれません。[*2]

mayukoさんについて

詳しく語るほど詳しく存じ上げているわけではないのですが、USで生まれ育った日系の方のようです。

私がmayukoさんを知ったのは、「A day in the life of a Software Engineer」という動画が当時はやってたように記憶していますが、たまたま当時バズっていたこの動画を見たことによってでした。なんとなく同世代くらいのUS在住のソフトウェアエンジニアが楽しそうに動画をやってるなと思ったのが最初でした。実際mayukoさんは同い年っぽいです。

youtu.be

他だと、当時はJomaさんとかJarvisさんも動画を積極的にあげていたように思います。[*3]私も会社の新卒研修でカリフォルニアに滞在していたことがあるので、カリフォルニアの気候最高なんだよな〜と思い出に浸りながら動画を楽しくみていたのが最初でした。

youtu.be

www.youtube.com

mayukoさんの動画のオマージュで、こっちはコミカルテイストで爆笑できます。mayukoさんに「犬飼ってるみたい」って言われててワロタ。

try! Swift Tokyoにも来て登壇されていた記憶があります。

niwatako.hatenablog.jp

以下印象に残った箇所など

以下は印象に残った箇所と、書籍には直接は関係しない与太話です。

使えそうな表現

あんまり書きすぎると書籍の意義がなくなってしまうので、詳しくは書籍で。いくつか抜き出しておきます。

  • make a call 決断を下す: make a decisionって言ってました。
  • I can't really find the words 言葉が見つからないんだけど: How can I describe it? How can I say? とか言ってたかも。英語でなんと言ったらいいかわからなくなったときに使えそう。間を持たせる表現として覚えたい。
  • have some bandwidth ちょっと余裕がありますね: いつもavailableを使って表現しちゃってたかもしれません。そういえばこういう言い方を同僚もしてたかもと思いました。
  • hook up 接続する: connectとかestablish connectionを使ってたかもです。便利な表現かも?
  • stand up a server サーバーを立ち上げる: 普通にlaunch a serverとかbootstrap a serverとか言ってたなあ。これも覚えておきたい。

「Engineer」か「Developer」かの話

たまに話題になっていますが、USではCSの学位がないとSoftware Engineerとはそもそも名乗れないというのが定期的に話題にのぼるように思います。私の経験の限りではこれはノーでした。というのも、私がUSの会社に勤務していたときは、CSの学位を持ってはいないものの職位はSoftware Engineerだったからです。単に所属する会社がどう取り決めているかに依存するだけの話ではないかなと思っています。

本書のコラムでも、(ちょっと上記の文脈には適合しないかもしれませんが)「コードを書いたり開発に携わっている人であれば、自己紹介のときにengineerやdeveloperといったざっくりした職種を使っていればほぼ問題ありません」というような感じで紹介されています。なので、職場でつけられているタイトルでそのまま名乗ればよいと思いました。

日本以外のチームと働くこと

私自身もここ数年日本以外のチームで働いている時間がほとんどなので、少し語れるかなと思い参考程度に書いておきます。

まず、あまり日本のチームにいたころと仕事の仕方は変わりません。というのも、そもそも日本のチームにいたときですら、開発手法はUS発のものを取り入れていることが多かったからです。そうした開発手法はすでに世界的に普及しており、USでもフィリピンでも仕事の進め方は大きくは変わらないと思っています。なので、日本で培った力はそのまま海外に出たとしても十分通用します。

一方で文化の差についてはよくわかっていないです。私がそもそもヨーロッパの人たちが中心のチームかつ日本人が普通に中にいる状態だったり、あるいは同じアジアの人たちと働くことが多かった関係で、USだけであるとかUKだけであるみたいな、完全に英語がネイティブスピーカーの人たちと働いた経験はありません。私自身は文化的な差で苦労したことはないのですが、聞くところによるとアメリカにはアメリカの婉曲表現があって、それがわからないとよく話題になっているように見受けられます。先ほども書いたかもしれませんが、ネイティブスピーカーとそれ以外が話す英語は結構違うので、この辺りの差はもしかすると人によっては苦労するかもしれません。

海外チームで働く際、おそらく大きく課題になるのは、そもそもの語学力だと思います。そしてその語学が問題なのだと思います。語学の問題とは、たとえば複雑な事象を説明することや、主張をする際に自分の気持ちをこめること、あるいは言葉のニュアンスの違いを使い分けて人と交渉したり、周りの人を動かしたりすることです。

ただ、海外で働いてみたい方やそれに準ずる働き方をしたい方に私からもお伝えしたいのは、英語は正直慣れである程度まではなんとかなります。[*4]大事なのは「とりあえずしゃべってやってみよう」という度胸の方だと思います。私も日系企業からUS企業に移った初日は「私の英語は通じるのかな…大丈夫かな…」と思って緊張しましたが、話してみたらちゃんと通じました。もちろん複雑なことを伝えようとしたときに、どうしても自分の言っていることがわけわからなくなって「ん??」という顔をされるとちょっと凹みますが、Google Meetsのコメント欄に英作文して乗り切ったり、「あとでSlackで詳しく伝えるね、ごめん」みたいな回避方法があります。

近年では日本企業でも公用語が英語だったり、オフショア拠点と一緒に開発する必要がある会社が増えてきているようです。私の勤務先もそんな感じなのですが、そうした企業からまずは肩慣らしをして、海外企業にチャレンジするのもありだと思います。

日本人はなぜ英語が的な話

本書には書いてない話なのですが、最後にちょっと気になる話題について考えておきたいと思います。

日本人[*5]が英語ができないという議論はときどき聞きますが、私の考えは「使う機会が少ないから」「教育が微妙だから」です。セブ島に以前出張したときに本屋さんに入ってみたのですが、書籍はほぼ全部英語でした。日常的に英語のコンテンツを娯楽として享受していることがわかります。フィリピンは多民族国家なので、マニラの方で話される言葉とセブで話される言葉にはかなりの違いがあります。聞くところによると、そもそも文法も語順も単語も全然違うので会話するのも結構難しいのだそうです。[*6]そういうわけで彼らは日常的に英語を使う必要があります。これはヨーロッパでもおそらく同様で、スウェーデン出身の同僚に聞いたところそもそも娯楽は英語圏のものを視聴していることが多いそうです。そういうわけで、彼らは英語が「使える」のです。

翻って、日本はコンテンツや本を日本語で享受できるため、日本に在住していると英語を使う機会が極端に少なくなります。日本の翻訳文化はとてもよく発達しており、英語圏で売れた本であればだいたい日本語に翻訳されて母国語で読めます。日々生活をしていても、英語が必要になる場面はほとんどありません。日本語にも多少方言はありますが、(申し訳ないですが私は津軽弁や鹿児島弁の聞き取りはちょっと難しいものの)なんとなく意味を掴み取ることはできます。根底にある語順などの文法構造はほとんど同じだからです。そういうわけで、そもそも英語をわざわざ使う理由がないのです。

次点としてよくあがる、日本の英語教育が微妙なのはその通りだと思いますが、支配的な要因ではないと考えています。私が日本の義務教育と高校で英語教育を受けていたのは10年以上前ですが、その当時はまるで漢文を読み解くかのような英語の教えられ方をしていました。英作文の授業なんかはそもそもそれを指導できる先生が少ないとかでほとんどなく、「漢文は読めるけど書けない」みたいな状態だったと思います。[*7]ただ、日本の教育でかなり強固な基礎知識が手に入っているのはたしかで、使う機会さえあればすぐ使えるようになる印象を持っています。なので、使う機会の少なさの方が、より問題であると考えています。

日本国内の英語の使用頻度の改善の観点では、子どものおもちゃに変化を感じています。子どものおもちゃや絵本を見ていると、最近は日本語の下に英語がついていたり、あるいは英語モードというのがあって英語で読み上げてくれるものがほとんどになっており、親の英語への意識の高まりを感じます。早期から英語を教えるべきか否かについてはいろいろ議論があるようですが、私は早くから英語に慣れさせるのはいいことだと思っています。[*8]

ただ上述した通り、日本に在住し続けつつ子どもを英語ペラペラにしたいのであれば、やはり親が日常的に英語で話しかけるなど、「英語を使う」機会を意図的に増やさないと効果が出にくいと思います。最近だとYouTubeを通じて世界中のコンテンツを見られるのでまずはそれを見せるのもありかもしれませんし、あるいは都市圏であれば国際交流のチャンスは10年20年前と比べるとかなりいろんな場所に転がっているので、意図的に子どもをそういう場所に連れて行くなどでしょうか。一番理想的なのは、海外出身の英語を話す家庭の親御さんとお友だちになってしまうことですが、これはかなりハードルが高いですね。ChatGPTが解決策になる未来が来るのでしょうか。

この手の本のフレーズの覚え方

ところで逆に読者のみなさん伺いたいのですが、この手の書籍で出てきたフレーズはどうやって覚えたらいいんですかね?もちろん、意識的に業務中に使うようにすれば覚えるんですが、書籍で出てきた内容がピンポイントで必要となるとも限らず、また使いたいときに思い出せないなどありそうです。

結局のところ、周りの同僚がそういうワードを使っていなければ、そもそも自分も使いこなせるようになる気はあんまりしません。私もIT業界での英語は結局のところ周りの同僚が言っていたフレーズを自分でもおうむ返しするかのように使いながら覚えてきた節があります。

それ以外の方法があったらむしろ知りたいところです。今のところはいつも通りAnkiというアプリに入れてときどき忘れた頃に思い出させようかなとか思っていますが、果たしてうまくワークするのでしょうか。使うチャンスを探して使ってみるのがとにかく大事なので、Ankiで頭の片隅に入れておくと良さそう。

自分で使うというより、そもそも周りのネイティブスピーカーが話している内容を理解できるようになるための知識を身につけるという意味では、書籍を通読するで十分だとは思います。

まとめ

結構網羅的に英語のフレーズを紹介している書籍だと思いました。

*1:おもしろいフィードバックですね!どっちの意味なのかとても気になりますね!プラスに捉えておきましょう!

*2:この場合、そもそもこういうライトなテイストの本ではなく、ちゃんとコロケーションの教科書みたいなものを当たる必要があると思います。たとえば私が役に立った教科書

*3:JomaさんのあげていたA day in the life of〜の動画はもう消えていた…会社から怒られたらしいみたいなことを言っていた記憶があります。

*4:ただし、プレイヤーとして指示を受けているうちは、「ある程度まで」なんとかなると思います。リード職になって思うのですが、リードやマネジメントする立場になってくると、細かいニュアンスを上手に伝えていかないと認識齟齬が生まれて、リーダーやマネージャーとして全然ダメじゃん、みたいな状況になりそうです。だから、そうした会社に勤める以上は英語力は伸ばす前提でいないと、いつか限界が来ちゃうのではと思ってもいます。

*5:最近この手のナショナリティの話は言及の仕方が難しいところですが、「日本で生まれ育った人で、両親共に日本語を母国語とし、日本以外に在住歴がなく、ESLなどの英語に関する専門的なトレーニングを特に受けていない」人くらいの意味で捉えてください。

*6:セブアノ語を聞いていると、完全に語順が変わるケースがあります。セブアノ語を学んでみたかったので同僚に聞いてみたのですが、タガログ語なら文法書が日本にもあるのでそこから入ってみようと思う、といってみたところ、「それは絶対無理だと思う。単語も文法も違うから」とのことでした。実際いくつかタガログ語をセブアノ語でなんというか試してみたのですが、セブアノ語側で語順が完全に入れ替わるケースがあり、こりゃ無理だ〜となりました。ところで、日本語と英語とでは語順が異なるので習得が難しいのだという話を聞きますが、さらに語順の異なるタガログ語を学んでみた結果(タガログ語はV+S+Oです)、慣れてしまえばそれほどでもないと思いました。語順より、語族の違いや地理的な違い、文化の違いは習得の難しさを生んでいるとは思いますが、それが問題になるのはネイティブレベルを目指したときくらいだと思います。

*7:私が多少なりとも英語を話せるのは家庭環境と、大学でESLを受けたり留学生と交流する機会が多かったからだと思います。

*8:ただ、バイリンガルを想定した子育ての書籍等を読むと、日本語をしゃべっている間は日本語で話し続けること、英語をしゃべっている間は英語で話し続けること、と強調されていました。混ぜこぜにすると子どもが混乱して、単語と事象のマッピングがうまくいかなくなるから、だそうです。